皆さんは、顔のほてりや眩暈を感じたことがあるでしょうか。頭痛や筋肉の痙攣、吐き気などを感じたことがあるでしょうか。
これらの症状の原因は様々ですが、登山中であれば熱中症を疑ってみましょう。
熱中症は、身体から水分・塩分が失われ、熱が体にこもることで起こります。
夏の登山は熱中症を起こしやすいと言えます。なぜなら…
- 重量のあるザックを背負い登ることで、体から熱が発生しやすい。
- さらに、放熱板の役割をしている背中をザックで隠してしまっている(体に熱がこもりやすい)。
- 夏の低山など、外気温の高い状態で登山をするので、体温が下がりにくい。
- 湿度が高く、風の通らない樹林帯で登山をするので、体温が下がりにくい。
- トイレを気にして水分を控えてしまう。
などなど…。
夏の登山は身体が熱を作り出しやすく、それによって上がった体温を下げにくいアクティビティです。
熱中症は重症化すると死にいたることもあります。
そこで、熱中症について、症状・対処法・予防法をまとめました。
熱中症はどういう時になるのか
人間の身体は常に、体温を36℃から37℃くらいの間で維持しています。
何らかの要因で体温が上がったまま下げられなくなってしまった状態が続くと、熱中症の諸症状が現れてきます。
まず最初に、体温が上がった時、人間の体がどうやって体温を下げるのか説明しますね。
人間は、運動をすると筋肉が熱を出します。その熱が体温を上げます。
すると、体は体温を下げようとして、皮膚表面付近の血管を拡張させ、汗をかきます。
水が蒸発する際、周囲から熱を奪います。
汗が蒸発するときに、体から熱を奪うので、体温が下がるという仕組みです。
この体温調整の仕組みが、何らかの要因で阻害されると、体温が上がってしまうのです。
体温を下げる仕組みは他にもいろいろありますが、高温環境下では95%が汗の蒸発に依存するようになります。
要因① 激しい運動をする
運動をすると、筋肉が動きます。筋肉が動く際、熱を発します。
これが体温上昇の原因です。
激しい運動をするとき、絶え間なく筋肉から熱が発せられ、体温はどんどん上がっていきます。登山で言えば、急登を登り続けている時ですね。
汗で体温を下げることよりも、激しい運動による体温上昇が上回ってしまうのです。
要因② 気温が高いとき
いくら体温を下げようと汗を出しても、周囲の気温が高すぎると、汗の蒸発による冷却効果が薄まってしまいます。
その結果、「体温上昇 > 冷却」となってしまい、体温が上昇します。
夏の低山などは、気温が高いため、早朝に登るのが理想です。
要因③ 湿度が高いとき
湿度が高いと、水分は蒸発しにくくなります。つまり汗が蒸発しなくなり、冷却効率が下がります。
よって、体温が上がりやすくなってしまいます。
ポタポタ流れ落ちる汗は、体を冷やさない無駄な汗となります。
要因④ 風が弱いとき
風が吹いたら涼しく感じるのはご存じのとおりです。
風が涼しく感じる理由は、体温より低い空気が直接体を冷やすということ、体の周囲の湿った空気が乾いた空気に入れ替わることで、汗の蒸発を促進し、気化熱で体を冷やすことの二点です。
風が弱いとき、この冷却効果が弱まって、体温が上がります。
要因⑤ 脱水状態のとき
運動時、汗をかいているのに水分補給を怠っていると、体温が上昇しても汗が出にくくなります。よって、ますます体温が上がります。
登山はいろんな要因が複合する
上記の要因は、すべて登山中にありえる状況です。
夏山の樹林帯などは、気温が高く、湿度も高く、激しい運動をしており、風も弱いです。熱中症のリスクがかなり高い状況です。
熱中症の症状
熱中症の症状は三段階に分けることができます。
I度 軽度の熱中症(熱失神、熱けいれん)
熱失神は、めまいや立ちくらみ、生あくび等・大量の発汗が特徴です。
体温が上がってくると、熱を逃がすために身体の表面付近の血管が拡張します。身体の表面付近の血流を多くすることで、熱を放出します。
しかし、血流を身体の表面に集めた分、脳に流れる血流が減ってしまうので、脳が軽い酸欠状態になってしまいます。これが、めまい・立ちくらみ・生あくび等が起こる理由です。
熱けいれんは、大量の汗をかくことで、血中のナトリウム濃度が低下することで起こります。
手足や腹部に痛みを伴うけいれんが起こります。
Ⅱ度 中度の熱中症(熱疲労)
Ⅰ度の熱失神・熱けいれんよりも、症状が進行すると熱疲労になります。
とにかく体温を下げようと、身体の表面付近の血管はますます拡張します。
当然、脳や内臓への血流が減りますので、頭痛・嘔吐・下痢・倦怠感・虚脱感・集中力や判断力の低下などの症状が現れます。
Ⅲ度 重症の熱中症(熱射病)
熱疲労になった後で、対処が遅れると、重症の熱中症(熱射病)に進行します。
血液中の電解質のバランスが崩れ、意識障害・内臓機能障害・ふらつきなどが起こります。
ここまでくると、自力で回復させることは難しくなります。ソロ登山の時は悲惨です。
なるべくⅠ度、遅くともⅡ度までには、対応したいところです。
熱中症になった時の対処法
暑熱環境で、体調不良になったら、まず熱中症を疑います。
もし、同行者が体調不良になったら、意識がはっきりしているか確認します。意識が無い場合は、覚悟を決めて救助を要請しましょう。
まずは、涼しい場所に移動して、服を緩め、身体を冷やしましょう。
冷たいペットボトルや、濡れタオルなどで体を冷やします。
冷やすポイントは、後頭部や、大きな血管が通っている首、わきの下、足の付け根部分です。
水分を摂ります。塩分・糖分と一緒に飲まないと、体に吸収されにくいので、お茶や水ではなく、スポーツドリンクを飲みます。
同行者に意識が無い場合、無理に水分を飲ませてはいけません。
体調が回復するまで安静にしていましょう。
十分に休んだら、予定を強行せず、安全なルートで下山します。
熱中症を予防するには
登山前にある程度の水分を摂取
登り始めればどうせすぐに汗をかくので、登る前にスポーツドリンクで水分とナトリウムを摂取しておくことをおすすめします。
こまめな水分補給を
水が重いということで、少なめに持って行くことは、初心者のうちは避けるべきです。
また、トイレが無いからと言って、水分補給を控えてしまうのも、熱中症の原因です。
登山中の発汗量は、
体重×行動時間×5(ml)
で表されます。
体重が60kgの人で、1時間当たり300mlも発汗してしまいます。
一度に大量に飲むと、吸収しきれません。20分に一回、少しずつ水分補給をしていきましょう。
お茶や水は避け、スポーツドリンクを飲む
人間の身体は、血液中のナトリウム濃度を一定に保とうとします。
汗と一緒にナトリウムが排出されているので、ナトリウムの含まれていないお茶や水を飲むと、血液中のナトリウム濃度が薄まってしまいます。
身体は、それ以上ナトリウム濃度を下げないように、のどの渇きをなくしてしまいます。
さらに、ナトリウム濃度を元に戻そうとして、身体の中から水分を尿や汗として排出してしまいます。
上記のように、お茶や水では体に吸収されてもすぐに排出されてしまうので、ナトリウムが含まれるスポーツドリンクを飲みましょう。
もし、お茶や水を飲みたい場合は、塩分を含むおやつや塩飴などで塩分を補給することを忘れないようにしてください。
よく、スポーツドリンクが甘すぎると言って、水で薄めて飲む方がいます。
水で薄めると、ナトリウムも薄まってしまいます。
そのまま飲むか、糖分が少なめのポカリスエットのイオンウォーターをお勧めします。
もしくは、味に目をつぶれば自分でスポーツドリンクを作るのも良いかもしれません。砂糖・塩・レモン汁だけで簡単につくれますよ。
スポーツドリンクに必須の成分は、ナトリウムと、糖分です。
ナトリウムは0.1~0.2%、糖分は4~8%程度必要となります。
手作りスポーツドリンクのレシピ
- 水 1000ml
- 塩 2g(0.2%)
- 砂糖 60g(6%)
- レモン汁 50ml
上記の材料を混ぜるだけ。
お好みで、材料の配合を変えてみたり、砂糖の種類を変えてみたりして、自分好みの味を見つけてましょう!
トイレを気にしない
登山道の途中にはトイレが無いことが多いです。
男性ならともかく、女性はかなり気になりますよね。
トイレがないということで、水分補給を控えてしまうという方も多いようです。
トイレに行きたくなったら仕方がないと諦めて、水分補給はしっかりしましょう。
また、上で書いたようにお茶や水で水分補給をすると、そのまま尿になることがあります。トイレが気になるならスポーツドリンクです。
自分のペースを守る
ソロであれば、自分のペースで歩くことは容易です。
ツアー登山や、友人との登山は、ペースを相手に委ねてしまうことがありますよね。
相手に付いていくことに精一杯で、汗をダラダラポタポタ垂らすようではオーバーペースです。
汗がポタポタ垂れるということは、汗が蒸発する前に流れてしまうということです。流れてしまった汗は、身体を冷却することに寄与していない無駄な汗ですよね。
相手についていくことを考えず、自分のペースを守ることも熱中症を防ぐうえでは大切です。
暑熱順化について(暑さに慣れておく)
エアコンに慣れたわたしたちの体。全く暑さに適応できていません。
梅雨明け後に熱中症患者数がピークに達するのは、暑さに体が慣れていないため、急激な気温の変化に対応できないからと言われています。
夏の登山をする前に、暑さに対して体を慣らしておくことをおすすめします(暑熱順化)。
発汗と血管拡張
連続5日間、2時間/日以上、暑い環境にさらされていると、わずかな体温上昇でも汗を出すことができるようになります。また、皮膚の血管も拡張しやすくなり、体の表面から熱を逃がしやすくなります。
汗腺でのナトリウム再吸収
暑熱環境に体が4~6週間さらされると、汗腺でのナトリウム再吸収が促進されるようになり、ナトリウムの喪失を抑えることができます。
暑さに慣れていない場合、1日で15~20gものナトリウム(食塩換算)を発汗で失うことがあるそうですが、暑さに適応することで3~5gまで抑えることができるようになるのだとか。
まとめ
冒頭でも書きましたが、熱中症は重症化すると死に至ることもあります。
登山中は、気分が悪くなっても、すぐに対処ができません。下山したくても動けなくなることもあります。
ですから、熱中症は予防が大事になります。
自分のペースを守り、トイレを気にせず小まめに水分補給をしましょう。少しでも気分が悪くなってきたら、休憩をして、身体を冷やすことに努めてください。
登山をはじめたころのyunaさんは、よく頭が痛いと言っては吐いてました。
吐くときは決まって真夏の低山か、負荷の高い急登の時でした。
真夏の丹沢山に登った時は、頭痛・吐き気・しびれ・足の痙攣が起きました。今思えば、完全に熱中症です。
この時は塔ノ岳山頂で、ラーメンの残り汁を飲んで塩分補給をして、1時間程横になって休むと体調が回復し、丹沢山に向かうことができました(この日は山小屋宿泊でした)
塔ノ岳山頂から下山するとしても、3~4時間なので、冷や汗モノでした。